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吼える月
第19章 遮断
 

「姫様っ!! 力入れすぎっ!! なんでぎゅっとするんですか、そこで」


 心で悲鳴をあげた子供に謝りながら、ユウナは口を尖らせた。


「だって落ちちゃうじゃないの、薬草をつけた布」

「そういう時は、直線的に巻くんじゃなく、交差させるようにすればいいんです。関節部分はこっちからとこっちからと」


 サクの熱が感じられるような近くにいると、甘えっ子のように無性にくっつきたい気分になる。

 サクにぎゅっとしたくなる。……サクにぎゅっとして貰いたくなる。その大きな体で包まれたくなってしまう。そんな願望を抱いている最中に、


「ん……? どうかしました?」


 この囁くような甘い声を向けられると、顔が……。



「お姉さん、顔が真っ赤だよ?」

「――っ!?」


 近くにテオンがいることすら気づかなかったユウナ。

 どれだけサクを意識していたのかと思えば、さらに恥ずかしくなって今まで以上に顔が熱くなってくる。


「あ、本当に赤いですね。姫様、熱でも出て来ましたか?」


 胸板に押さえつけられるようにして、大きい手がユウナの額に触れる。

 斜め上から覗き込まれるその端正な顔があまりに近すぎた。


 吸い込まれそうなほどの吸引力を持ちながら、ほどよくしっとりと濡れた漆黒の瞳は、心配気な光を揺らしてユウナを魅縛してくる。


――姫様、好きです……。


 とくん……。


――姫様、俺……。



 サクの匂いが充満する中で、ユウナは苦しげにぎゅっと目を瞑った。



 鎮まれ、心臓。

 落ち着け、あたし。



 形にならないもどかしいものが胸に渦巻いている。

 輪郭がないから、ただ胸が詰まって苦しいだけ。

 急いたような心臓の音が早まるだけ――。


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