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吼える月
第21章 信愛
 

 ユウナは手を伸ばして、サクの頬を撫でた。

 サクは切なそうな顔をして、その手に自らをなすりつけるような仕草で返し、さらにその手の上に自らの手を重ねた。


 傷を舐めあうのような、ふたりの愛撫。

 それは肉体の享楽を誘うというよりも、互いの痛みを癒やすものだった。


 同じ痛みを知ればこそ。


「……シバのように、私怨で終わるはずの憎悪を、形ある復讐に駆り立てることがリュカの願いであるのなら、それだけは防ぎたい。ましてや、親子であるのなら、余計殺しあいはさせたくねぇんです。お節介とは思いつつも」


 生きている父親がいるのなら。

 生きている息子がいるのなら。


 それだけで素晴らしいことだと教えたのは、ハンだった。


 息子のために命を落とすことになったハン。

 その父親に生かされている自分。


 そうやって、父から受け継いだ血は後世に紡がれるのだとサクは思った。


 だから、シバは見ていて心が痛かった。

 自分は、いかに恵まれていた環境なのかと思い知った。


 ならば。


 シバにも、見せてやりたいと思う。


 血が繋ぐ、信愛の情を。

 選べない親なれど、その親から生まれて来てよかったということを。


 だが同時に怖れてもいる。


 シバとジウの間を裂いたのがリュカであったならと。


 だから願わずにはいられない。


 リュカが……関係していないようにと。

 僅かな可能性に縋り付く。


「親は、子供を愛すものだしね……。ジウ殿は……情に厚かった方。出来損ないと蔑む彼の子供の教育を、いつもハンにぼやいては、子育てのコツとか細かく聞いていたと、あたしはハンから聞いたことがある」

「子育て……。で、親父はなんと?」

「死なない程度に食わせて、親が虎を退治した虎穴に入れろ。それで安心させておいて、今度は親が虎になれ、ですって。絶句して固まるジウ殿を、ハンは大笑いしながら置き去りにして帰ったそうよ」


「はは、ははは……。色々ひっでぇ…」


 ハンのことを思い出すと、涙が出そうになる。

 それを隠すように、サクはユウナの手を弄りながら、笑った。
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