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吼える月
第21章 信愛
 

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「"忠誠の儀"? ここで?」

「そうです、姫様」


 ユウナに無視され続けていたサクは、いじけるような表情にて、なお一層後ろからユウナに抱きついてご機嫌をうかがいながら、その耳に囁いた。


 "忠誠の儀"を今から始めたいと。


 少し前――。

 狼の居る場所にユウナを置いておけないし、かといってジウの確認もせずにリュカの来訪を待つのはなにか危険すぎる気がすると、サクがイタチにぼやいた時、イタチはなんでもないといった口調で答えたのだ。


『小僧、なにも姫と儀式をすればいいだけではないか。小僧との契約の証である耳飾りを姫に渡せば、遠隔からお前は我の力にて姫を守れる』


 あっさりと。シバが突きつけた二択の悩みは、欠伸まじりのイタチの言葉によって解決となる。できればユウナを近くで守りたいが、それでもリュカが来る前にジウに接触したいサクとしては、妙案だった。


『決意が出来たら起こせ。我は眠い。ZZZZ……』


 イタチの反省時間は終わったらしい。サクがユウナにじゃれ始めたのを見て取り、二本足にてすたすたと部屋の片隅に歩き、体を丸めて目を閉じてしまった。


 イタチなりに気を使ったのか、本当に体力を消耗していたのか。

 ふさふさを抱っこしたいと自分から離れようとするユウナを引き留め、ユウナの頬に自分の頬をすり寄せたり、あやすようにゆらゆら揺らしてみたり。

 しかし恥ずかしさが抜けぬユウナの体は強張ったままで。

 そこでサクは思いきって切りだしてみたのだ。


 自分がしたくて仕方がない、主に生涯を捧げるための儀式を。
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