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吼える月
第23章 分離
 


 テオン――。



 多分今、テオンが目指しているのは艮の方角なのだろうとサクは直感していた。


 誰もが寄りつかない場所。

 誰もが寄りつかない時間。


 そここそがジウのいる青龍殿だと。


 テオンは何度もそこに行っている。だから狼狽していないのだとの確信を強めた。



 潮風が冷たく、風脚が強くなっている。

 シバの言う通り、満潮が近づいているらしい。


 シバは嘘をつける性格ではない。

 ジウによく似て、生真面目すぎるとみたからこそ、ユウナに手を出させないというシバを信じた。


 信じるしかない。

 この身体に眠る、神獣に共鳴する血を。



――任せておくのだ、我が姫を……。


 ふにゃふにゃ言いながら、崩れたイタチ。

 直後に聞こえる腹の虫。


 腹が減るほどには、貧血も回復できたらしい。



 本能の赴くままのイタチの豪語は、あまりあてにならない気がする――。



「……はぁっ。なんであんな野生のイタチになっちまったんだろう。親しみはあるけど、頼りがいがねぇって言うか…。あんなに非情に俺の身体の骨バキバキ壊したくせに、すぐめそめそするようになったし。まぁ……"シャーッ"よりは良いけどさ…」


 なんで他の神獣の武神将の息子の言葉の方が、信頼できるように思えるのだろう。

 自分は本当に玄武の武神将でいいのだろうか。

 本当に玄武に認められて、信頼関係を築けているのだろうか。


「いけね、"武神将は神獣を信じるべし"。……はぁっ」


 再度やるせないため息をついた時、むっとしたような声が響いてくる。



「……なんで、僕になにも聞かないのさ」



 先に痺れを切らしたのは、テオンだった。
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