この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第23章 分離
「なんであんな怪物を俺に見せた? あれさえなければ、今の状況にはならなかったはずだ」
「……興味がわいたんだよ。お兄さんが強いから」
「は?」
「シバが、お兄さんと手合わせしているのが凄く楽しそうだった。だけどお兄さん、お姉さんと離れようとしないし。だったら少し離れて貰って、お兄さんの腕と度胸がどれくらいなのか、試してみようと思って」
「で、姫様を襲わせたのか、お前」
「本当は、そこまでする気はなかったんだよ。お兄さんが怖がってくれたらそれでいいと思ったんだけど、シバと楽しそうに闘い始めるし。そっちに気を取られたら、お姉さんをちょっと驚かすだけのつもりの"悪戯"が制御出来なくなって、実は僕も慌てて……」
「慣れてねぇのかよ、実は」
「同時進行での操作、あれが初めて」
サクは、テオンの頭に拳骨を落とした。
「イテテ。年上になにをするんだよ」
「そういう時ばかり年上ぶるな。いいか、人にない力は見せびらかすな。自分を守るためだけに使え。……まぁ、玄武の力にまだあまり慣れてねぇ俺も、偉そうなことは言えないが」
そしてサクは薄く笑う。
「シバは薄々でも気づいているぞ。お前が力を持っていること」
「えええ!? そ、そんなはずは……。今までこっそり使ったことあるけど、なにも言われなかったし」
「お前を信用しているからだろう、害意はないと。或いはお前の動向を観察しているのか。普通、突然再生出来る巨大怪物が出たら、しかもそれが神獣を模して表れたのなら、子供を守るためとはいえども、真っ正面から怪物に競り勝とうなんぞ思わねぇだろうさ。幾らがちがち頭のシバでも、別の方法考えるさ」
「……っ」
「命とるまではしないとわかっていたから、ちんたら"怪物を抑える"だけの闘いをして、お前がどうしたいのかを見つつ、お前同様俺がどこまでの腕があるのか見定めたかったからなのかも知れねぇな。結果俺は玄武の力をさらしちまったが」
そしてサクはにやりと笑ってテオンに言った。
「今回のことでお前は調子に乗って子供達を操り、謀らずともイルヒを危険な目に合わせた。もしもお前も危険な目にあっていなければ、シバは制裁に動いたと思うぞ。シバに"帳消し"にさせ沈黙を貫かせた、その未熟な力に感謝だな」
「そ、そんな……」
がっくりと小さな頭が垂れた。