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吼える月
第23章 分離
 

 入る方法が出来ても、会いたい人間がいないという現実。

 それはどこまでも不穏さしか感じられないけれど。


 それでも信じるものは、親への愛。

 サクは、ハンに抱く子供としての愛情を、テオンから見いだした。


 多分、自分がテオンの立場ならば。

 やはり瀕死の父親を放ってはおけないと思うから。


 テオンを信じれば、これほど頼りになる案内役いない。


「ああ、3日後の日没まで。頼むぞ相棒!!」


 サクはテオンが上げた手を、パンと景気よく叩いてにかっと笑った。



「そうだ。お前が知る最後のジウ殿に、狂った様子はあったか?」

「正直、僕、いつもジウから逃げ回っていたから、よくわからないんだ。あの顔で近づかれたら、とにかく恐くて。僕にしてみれば、あの顔だけで狂っているようにしか見えなくて」

「……重症だな。で、"兄貴"ならいいわけか?」

「うん。優しいし」


「ジウ殿の方が礼儀わきまえている分、穏やかに思うが。あんな好色そうな荒くれ者よりは……」


 サクはぼやきながら頭をがしがし掻いた。



 棄てられても、残るのは父親への愛。

 だったらシバはどうなのだろう――。


 募る怨恨に、僅かでも愛情は残留しているのだろうか。



――オレの名はシバ。姓はもたない。



 サクは、ふと考えた。
 


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