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吼える月
第23章 分離
 

「サク……」


 その名を小さく呼べば、近くにない温もりに切なくなる。

 今、サクはどうしているのか。


 思わずサクの耳飾りを握りしめ、サクの帰還が少しでも早くなるようにと願わずにはいられなかった。


 その時である。


『なんだ姫。離れて寂しくなるほど、姫は小僧を好いておるのか』

 
 ぱしゃりと湯を弾く音をさせながら、見透かしたようにイタチが声をかけた。牙からサクの帰還を願ったその心は、イタチに流れ込んだらしい。


――……俺、姫様が好きです。嫁にしたい気持ちは、変わっていません。昔からずっと……。



「サクが、好き!? あ、ああああたしまだ嫁になるとは……っ!!」


 ユウナは驚き仰け反った。


『誰も嫁になるかとは聞いておらぬ。小僧はまだまだ荒削りゆえ、姫の婿にも至る器であらぬこと、我も熟知しておる』

「べ、別に、サクの嫁にそこまで嫌がっているわけでは……」


『嫌いでないのなら、好いておるのだろう?』


 なんてことはない、イタチが問うたのは二者選択の"好き"。


――……俺、姫様が好きです。


「ええ、好きよ」


 二者択一ならば、それは間違いなく即答出来る。

 

 大切で好きでたまらない。


 もじもじとして俯いてしまったユウナの肩を叩いたのは、イルヒで。



「ひとりで惚気なくてもいいから。あたいわかってるよ」


 にやにやと笑いながらユウナを見上げてくる。


「の、惚気てなんか……」

「ここからは女同士の話だ!! 皆、散った散った!!」


 不平不満を言う少年達はいなくなり、洗い物が吊られた"洗濯場"の空間にユウナとイルヒだけが残った。

「お嬢お嬢っ、恋の話をしようよ! あたい、そういうの出来る相手がいなかったから、お嬢としたい!」

「こ、ここ恋!? あたしは別に……」

「お嬢、あたいの好きな人を教えてあげるから、まず座って?」

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