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吼える月
第23章 分離
 


「イルヒは、テオンのどこが好きなの?」


 質問に答えぬためには、別の質問にすり替えるしかない。

 ユウナの率直な質問に、今度はイルヒが狼狽えた。


「どこ、どこって……どこだろう!? どこかな?」

「あたしに答えを求められても……」


 苦笑しながらも、真っ赤になっているイルヒは、純粋に可愛いと思う。

 男のような身形をしながらこの集団の中を生き抜いているイルヒ。どう見ても天真爛漫な子供なのに、テオンを想うとここまでしっとりとした少女に変わるのか。


「ええと……全部、好きなんだ。どこがっていうよりも、どこも嫌いなところがないというか」


 ユウナはふと、先ほどイタチに聞かれた質問を思い出す。


――嫌いでないのなら、好いておるのだろう?


 イルヒと同じ答えが、自分の中にあった。


「どういう風に、好きだと感じるの?」


 ついつい、身を乗り出して聞いてしまう。


「その……あたいを女の子扱いして、守ってくれるのがじんときて、格好いいなあとか」


 サクに対するものと同じだ。


「傍にいれば、心がぽかぽかして、今みたいに離れると、心が寒くて。早く帰ってきて欲しいって、凄く思う」


 これもまた同じ。


「ね、ねぇイルヒ。例えばテオンの笑顔に胸がきゅうと鳴ったり、触れあうとドキドキしたりするの?」

「そりゃあするよ。好きだから。あたい…テオンのお嫁になりたいもの」


「お嫁さんになりたかったら、そんな気持ちになるの!?」

 ユウナはイルヒの肩をがしっと掴んだ。


「なに突然!! お、お嬢はどうなのさ!! 猿に対して、どう思うの!?」


「あ、あたしは……」
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