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吼える月
第23章 分離
 

 身体に触れねばならないという不可抗力の事態は確かにあった。

 だがサクだから、抵抗したいとも思わなかった。

 それどころか、"治療"だと線をひかれても、サクの男の目にドキドキして、サクなら触れられてもいいと思い、触れられたいとサクに懇願し。いやらしいことをされて気持ちいいと叫んで、唇を重ねたいとせがんだ。

 発情に至る外部的原因があるにしても、サク以外では嫌だとそこはちゃんとした意志があったのは事実。この先、同様な睦み合いを拒絶したい気など、なにもなかった。治療でも治療でなくても。


 サクだから、心から身を任せられた。

 リュカでは、覚悟しなければ身を任せられなかった。


 決定的ではないか――。



 心の中の靄が、突如晴れた。


 そこにあったのは――。
 


「お嬢?」

「あたしにとって、サクは身近で特別。サクはあたしにとっていなければならない人、離れたくない人なの。サクだから身体を捧げられる。許したの。サク以外は絶対嫌」

「……お嬢。それはどう聞いていたって……」

「そうよね、あたし……イルヒに指摘されて、ようやくわかった」


 そこにあったのは――恋心。


「あたしは、サクが好き」


 ようやく見つけた、自分の心の中に根付いていた気持ち。

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