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吼える月
第23章 分離
 


 晴れ晴れとした顔でふさふさの白イタチを首に巻き、軽やかな足取りでイルヒと廊を歩くユウナは、時折イルヒと顔を見合わせては、くふりと含んだ笑い顔を見せ合う。

 相手は違えど、恋する乙女同士、そこには前以上もの連帯感が生まれていた。


――お嬢に、ちょっと案内したいんだ、もっと奥。


 ふたりが歩く通路は、くねくねと曲がっており、これはひとを錯綜させるために後で作られたというよりも、多くの洞穴で複雑に連なって出来たこの洞窟じみた場所が、元々そうであっただけの単純な話のようにユウナには思えた。

 この根城のどこにも共通する、剥き出しの岩肌のような壁は、ある程度はひとの手により整えられているのはわかってはいたユウナだが、山の天然素材とも異なる非常識な元の姿を見たのは、イルヒに連れられた奥まった場所で、であった。

 山肌には思えない激しい凹凸を見せる真なる姿。異世界に迷い込んだかのような不気味さ通り越して、唖然とするほど神秘的とも言えた。

 水に溶けているような滑らかさを見せながら、触れば岩石のように硬い不思議な素材……。


「まあ、天井にはつららが!? 危ないわ」

「それがね、違うんだよ。あのまま固まってるんだ。不思議だろ? 海に浮く浮石なみに、びっくりしちゃうよね」

 大きな岩が重なっているように飛び出たと思いきや、あるところは凹んでいたり。水が滴り落ちたような沢山の筋をつけたまま、固まっているものもある。

「きちんとした"住居"に加工なされているのは、さっきまであたい達がいた真ん中部分なだけで、船から目隠しして歩いていた時も、実はこんな感じだったんだ。もっと足場からして奇っ怪なとこだけれどさ、そこを猿が見ているかのように目隠ししながらきゃっきゃと軽く歩くから、びっくりしたよ」

「入り口がこんなだったら、奥にひとが住んでいるようには思えないわね」

「それさ、狙いは。……これ内緒だからね」

「わかっているわ、内緒ね。……だけど、やけに寒いわね」


 こんな奇怪な岩肌をみせる洞窟を初めて見たユウナは、漂う冷気から逃れようと、イタチの身体を撫でて暖を取る。


 洞窟のような土埃は感じず、代わって水気を感じる不思議な空間。

 山ではなく海に浮かぶこの根城の正体が掴めない。
 
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