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吼える月
第23章 分離
 

 蒼白な肌。

 紫に変色している薄い唇。


 目を瞑っていても中性的に整った顔立ち、どこまでも美麗な男だとわかるその姿は、ユウナの記憶するリュカと同じだというのに、なにか"違和感"を感じた瞬間――、耳もとでばちりと音がした。


 耳飾りが、やけに熱い。



『姫様――?』



 聞こえてくるサクの声。

 幻聴だと思ったユウナは、またまじまじと男の顔を見る。


 顔が濡れているのは海水のせいではないらしい。醜く腫れ上がった足首の傷が原因で、高熱を出しているための発汗もあるらしい。

 時折聞こえるか細い呼吸音だけが、かろうじて彼の生を伝える。


 なにか違和感を感じるが、この男の輪郭はどう見てもリュカ――。


 そう思うのに、どこかしっくりこない。



『姫様!!』

「――っ!?」


 はっきりと聞こえたその声に、ユウナはびくんと身体を震わせた。

 途端に、ユウナの周囲で空気が震えて、ぴしりと皹が入った錯覚になる。


『姫様、返事をして下さい!!』


 明瞭になるサクの声が、その皹に決定打を打ち込み、瀕死の男だけしか見えなかったユウナの世界が拓かれた。


 そして突如視界に現れたのは、驚愕に満ちたシバの顔。


「お、お前……?」


 どんな理由で驚いているのかはわからなかったが、ユウナの注視はそこではなかった。


「え、サク!? 本当にサク!?」


 初めて頭の中に聞こえたサクの声。

 気のせいにしては、息遣いまでもが妙に生々しく。もしもこれが幻聴であれば、それくらいサクを求めているのだという、おかしな現実問題が浮かび上がってしまうことになる。


 だが、聞こえる声は――。


『そうです、俺です姫様。急に嫌な予感がしたんで。姫様ともイタ公とも突然連絡がとれず、なにかおかしな力に阻まれたようなので、ちょっと力任せに力で押し切ったんですが、姫様大丈夫ですか!?』
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