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吼える月
第24章 残像
 

「まあ、あんなに可愛いお姫様に甘えられておねだりされたら、たまったもんじゃないよね。それが想い人ならさ。よかったね、あそこまで求められるほどに両想いになれて。お姉さんだって腕輪を買った時から、お兄さんのこと満更でもない様子だったしさ。なんだ、やっぱりそうなんじゃないか。まだ夫婦じゃないというだけで」

「………」

「……お兄さん、なにその項垂れ方」

「………」

「まさか……夫婦どころか恋人でもないとか……」

「黙れ。いいんだよ、これからなんだよ、これから!」

「うっわ~。あれでも両想いじゃないんだ? そんなこと、ありえるんだ……。やっぱり主従関係が悪影響及ぼしてるの? いやいやだけどお兄さんとお姉さんは、時々どっちが上かわからなくなるし、どちらかといえば対等のようだし。まあ、お兄さんが武神将でも相手はお姫様、やっぱり身分差という問題もあるか。だけどそれ、気にしそうなお姉さんじゃないけど? ねぇお兄さん、お姉さんに不毛な片想いしてどれくらいなの?」

「………」

「……まさか、10年以上、ってことはないよね、さすがにそこまでは」

「………」

「え、そうなの!? 10年以上もお兄さん、お姉さんに片想い!?」

「………」

「お姉さんが鈍感すぎるの? それともお兄さんの不手際!?」


 サクが項垂れ、テオンが前のめりとなってしまう。


「いや、ま、まあ…。だけどほら、身体だけでも繋がれてよかったじゃない? 繋がれるのはお姉さんもその気があるってことだしね、うん!」

 しかしサクからの返答はなく、逆にさらに落込んでいるように思えたテオンは、明るい声を出して、下がってきたサクの肩を手でバンバン叩いて、励まし始めた。

「ぼ、僕は好きな人を抱いたことがないから、羨ましいよ。僕のハジメテだって、祠官になるための大人の勉強として、あっさり終わったし。というかこの身形だったら色々小さすぎて、相手変えても満足させられなくて……。ちょっとそういうことは、敬遠したい黒歴史になってしまったし。それに比べたら……」

「ゲホゲホゲホッ……お、お前、女抱いたことあんのか!?」


 サクの動揺に、テオンは当然のように答えた。
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