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吼える月
第24章 残像
 

 ユウナの返答を受けた途端、リュカの微笑みの如く――、蕾が開くかのようにふわりと微笑んだスンユの顔の中、冴え冴えしく光る双眸だけがやけに異質に光ったように、ユウナには思えた。

 それはよくない予兆のように思えたユウナは、身体を強張らせる。


「娘さん、恋仲の相手の存在を否定しない潔さに感服した。ああよかった。神獣に関係ないのなら、娘さんの悲しむ顔を見ないで済む。命まではとらないから、安心していい」


 ユウナは目を細めた。


「どういう意味?」


 その声が警戒と不安に震え、"襟巻き"をぎゅっと握ってしまう。


「私はね、使命があるんだよ。この大陸を穢す者達を一掃する」


 冷えた目をしたまま、穏やかにスンユは言う。


「穢す者? ……それはあたしと同じ髪の色を持つ者達ということ?」

「結果はそうなるね、なにせ今の私の標的は、私と同じ顔を持つ、君の祖国の謀反人なんだから」


 ユウナは竦み上がった。

 スンユは、リュカの存在を知っている。しかもそれは決して好意的ではなく、むしろ敵視しているようで。


 "君の祖国の謀反人"がなにを意味し、そしてリュカが光輝く色を持つことも知っている口振りに思えた。


「あなた……何者なの?」

「私は、皇位継承権を剥奪されるほどの放蕩三昧を繰り返している、この大陸で一番偉い男の血を引くものさ」


 皇位継承権がない……そう語るスンユの眼差しには、どこか不満足そうに見え、この男は、今の状況に甘んじるつもりはないのだと…ユウナはそう感じた。


「協力しあおうじゃないか。君は、"奴"を殺したいほど憎いんだろう? だったら私は味方だ」


 ざわざわと背中に這うのは、なんの予感なのか。



「どうだ、光に穢れた黒陵の姫」


 わかることは――。

 この男は、自分の正体をわかっているということ。

 ここでの出会いは、偶然なのか、それとも必然なのか。
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