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吼える月
第24章 残像
 
 船が到着してから罠が発動するまで、サクが感じた怪しい気配は複数あり、それが同一のものだと断言できない以上は、複数この内部で自分達の動きを見ている可能性も高い。

 姿を見せずして、ふたりをぐるぐると、終着点のない無限回廊状に誘導でもしているのだろうか。

 ただの推測しか成り立たない現状において言えることは、テオンは幻術の力を使っている形跡がないこと(必死に罠から逃れようとしているテオンに、力を使う余裕はない)ということだけ。

 こうして敵の全体像を掴めず、幻術かどうかも確認出来ずにいいように振り回されている状態であるのなら、一度屋敷から退却して体勢を立て直して乗り込むのが得策だとサクは思うのに、外界に通じる扉は開かない。

 
「くそっ、やっぱり輝硬石なのか!?」


 サクの腕力や武力もってしても、鎖や鍵を引きちぎることはおろか、扉を押し開くことも、叩いたり蹴り壊すこともできないのだ。


 つまり、現況……罠だらけの不思議な青龍殿内部に、サクとかつての住人は閉じ込められているのである。


「ああくそっ!! この扉が開かねぇ限り、延々とここを彷徨うのか!?」


 不安よりも苛立たしい。


 こうも出鼻挫かれてしまえば、サクは余計残してきたユウナを思う。

 出来るだけ早く帰りたいと思っているのに、目的をなにひとつ果たせぬままに、今はここから出ることすらままならない。


 姫様、無事でいてくれ――。


 イタチとの交信は悪化の途をたどり、ざあざあという砂のような音に妨害されるではなく、今ではぷっつりと音が途絶えた状況。

 イタチにユウナのことを聞くことも出来なければ、こちらの状況に忠言を貰うことも出来ない。

 八方塞がり状態にいらいらが爆発しそうだ。


「本当に、使えねぇ奴だっ」

「ひぃぃっ!!」


 思わずイタチに八つ当たりして叫んでしまった時、サクの頭上から短い悲鳴があがった。
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