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吼える月
第24章 残像
 

 命からがらテオンの示す方向に走ってきて、振り出し地点に戻される――、それもすべて外敵の備えであるというのなら、玄武殿を沢山の屈強な警備兵で守っていた黒陵の方が随分と原始的に思えてしまったサクは、なんだかそれが悔しくて、いらいらとしてしまう。


「あああ、しかし!! なんで、来る度に道を違えているのに、違う道に出るならまだしも、いつも戻るんだ!? 後退なんて絶対してねぇぞ、俺は方向感覚には自信がある。そもそもここまで色々なところを走り回れるほど、本殿は大きな作りではねぇだろう、外観通りならば。走れば走るほど、なにか床も不安定になって前のめりになりそうになったりしたし、なんでこんな状態になるんだ?」

「僕が聞きたいよ……。僕が忍び込んでいた時は、記憶通りの部屋の配置で。その通りに進んでたのに、なんで入り口!? しかも罠を避けて回り込んで走る距離が異様に長いし!! 道変えても、また入り口…」

 テオンは疲れ果てた顔をして、項垂れた。

「都度長さや形状変えて、迷宮化する"生き物"みたいで、僕……気持ち悪いんだけれど。

はぁ。なんでこんなになったんだろう。だけど僕の仕業じゃないって信じてくれてありがとうね。僕、その分知恵振り絞って色々考えるから。お兄さんの一番弱いところを補えるように」

「おぅっ!! ……って、お前本当にひと言多いよな……」

 しかしサクのぼやきは、テオンの言葉で遮られる。テオンの耳に届いているのかどうかも怪しいところだ。

「ねぇ、お兄さん。さっき拒まれたけれど、ものは試しで、神獣の力で扉を開けてみない? それともやっぱ、玄武の力はそういうことに使用するのは禁じられているの?」

「不正や私欲以外は特別に縛りはねぇが、今の場合、使えねぇんだよ」


 サクは不愉快そうに顔を歪めさせた。
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