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吼える月
第24章 残像
 

「どうだテオン!!」

「よし、覚えた。お兄さん、次!!」

「了解」

「次!! 目が慣れたから、移動は早くしていいよ」

「了解」

 
 大きくて強靱なサクの肉体が、矢の攻撃を躱して罠を壊していく様は、ひとつの剣舞のように、実に軽やかで実に律動的で。そして身体を動かすサクの顔自体も、実に活き活きとして凜々しいものだった。

 身体のバネをふんだんに活かしながら、身体を捻るようにして剣鞭で罠を斬り除けつつも、テオンを乗せた上半身の向きは、燈篭が見えるような向きに固定され、必要最低限の揺れしかない。


「全部、覚えた。全部で燈篭32個、64文字!!」

「えらい!!」


 そしてサクが最後の罠を斬った瞬間――。


「「!?」」


 烈しい眩暈に襲われ、サクの視界が大きくぶれた。

 上にいるテオンも同様に。


 なにか別の景色を映した破片が刹那に舞い散り、そして――。



「「なんでまたここ!?」」


 気づけば、再び燈篭の廊の入り口。

 しかも今度は、消えている燈篭の位置が違った。


「ふぅん? 全ての罠の除去もまた、ひとつの罠か」


 サクは、やはり罠が発動しない位置まで数歩後退しながら、舌舐めずりをして言った。

 その顔は絶望や驚愕よりも、好戦的に充ち満ちて愉快そうであった。


「お兄さん、見た?」


 テオンの声も興奮に上擦り、消沈したものではない。


「ああ、見た。除いたはずの罠、あそこに復活してる。一瞬だ。視界がぶれた一瞬で、苦労は水の泡。すげぇな、おい」

「ふふふ。僕が聞いた真意をわかってて、違うこと答えるお兄さん最高。しかも楽しそうだし。普通ここ、"どうすればいいんだああ"って叫ぶとこじゃ? お兄さんのお得意分野だよ?」

「そういうお前もやけに、楽しそうだな。まるでなにか糸口みつけたようだに声が明るいぞ? さっきまでの唸り声はどうした?」

「うふふ。お兄さんがそこまで知ってたのは意外」

「ははは。あとでイタ公の喉もとをなでてくれよ」

「亀の?」

「イタチだ。……と、無駄話はここまでで」

「じゃあ答え合わせをしようか」

「そうだな、せーの」




「「八門八神の陣」」




 そしてふたりは上下の位置で、共に同じく超然として笑みを浮かべた。

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