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吼える月
第25章 出現
 
「否。餓鬼は脅しだろう。真の狙いは私と同じ……シバの持つ青龍の鍵。だからここに来た。国を取るつもりなら、青龍殿に行ったろうさ。

鍵をあいつらに渡したところで、あいつらが餓鬼を引き下げる確証はない。私が餓鬼を消せるという確証と同じくな」

 ギルが握りしめた拳に力を入れた。


「化け物がなんだ、俺が蹴散らして……」

「無理よ、ギル!! 玄武殿も食われ、大砲やとても強い鎧ですら食べてしまう奴らなのよ!? あたしだって、サクと命からがら逃げて……」


 そうだ、玄武の力を使えるサクが居れば……!!


「そうよ、サク……、サクを青龍殿から呼び戻せば…」

「船も食らう餓鬼の海でどこに行こうと、娘さん?」


 ユウナは泣きたい気分になった。


 どうすれば、いい?

 どうすれば、サクの居ないこの窮地を脱せられる?


「発砲されるか、或いは餓鬼に食われるかして、この砦は壊れる。子供達は泣き狂い、大砲から生延びても餓鬼の餌になる。

それを回避するために、奴らに鍵を渡して、延命を乞うてみるのか。

或いは、私に鍵を渡して、私が餓鬼を消すことを信じてみるか」


 そしてユウナを見る。


「銀色も金色も、娘さんならきっとその性格を分かっているだろう? そのために君は、必死にここまで逃げてきたんだ。多くを犠牲にしながら」

「……っ」


「どちらが非情だとお前達は思うのかな? 私かあいつらか……」



 
 ギルがシバに言う。


「シバ、ここはこいつの……」

「出来ない」


 シバの顔には苦渋の色が浮かんでいた。


「あ? だったらその奇妙な化け物を放つ奴らに渡すのか、鍵を!?」

「それも出来ない」


「だったらどうするつもりだ!?」

「………」

「シバ!!」



「シバよ、なにを悩む。私に鍵を渡せばいいんだぞ?」

「無理だ」
 


 頑なに拒絶するシバに、ギルもスンユも焦りを見せる。


「シバ、時間がないんだ!! 子供達を守るため、こいつに……っ」

「出来ない……っ」


 ユウナは、目を見開いた。


 もしかして。

 まさか!?


 ひとつの可能性に行き当たったのだ。


 シバがユウナの視線に気づいて、渋々といった感じで頷いた。




 ああ、シバは――。

 青龍の鍵の在処など、本当は知らないんだ!!
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