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吼える月
第25章 出現
 
「……聞こえるか、テオン」

「……うん、この音……」


 下に行くにつれて、重低音の唸るような音が輪郭を持っていく。

 それはふたりには聞き覚えがある音だった。


「「渦が消える時の音だ」」



 サクは舌舐めずりをした。


「さあ、前方に光が出て来た。この音がなにを意味しているのか、この道の終焉にあるものではっきりとわかるだろう……」



 そして――。


 強まる眩しい光に手で覆いを作る。

 その光に慣らしたふたりの目に映ったのは――。



「あ?」

「ええええ!?」


 テオンがサクの肩から飛び降りた。



「なんで、なんで!?」


 ふたりはその場で回転するように景色を見つめる。


 そこはどうみても――。


「「街!?」」


 粗末なものではあるが、小屋のような家屋らしきものが道の両脇にずらりと建ち並ぶ、ひとつの街のような光景だった。


「地面がある!! え、空もある!? 蒼陵は海の国で、僕達海の中の青龍殿を下に下に降りてきて、え、なに、どういうこと!?」

「海の中の街!?」


 サクはぐるりとあたりを見渡して、訝しげに目を細める。


「これらは……ここ数日で出来た代物じゃねぇな。しかも突然発生したもんじゃねぇ。テオン、あそこ見ろ」


 サクが示した方向には、洗いざらしの服が干されていた。

 女ものと男ものと。それは子供のものではない。


「確実にこの街にはひとがいる。そこから考えれば……」

「もしかして、ジウが集めた大人たちが、ここにいるっていうこと!? だったら、この街の開墾に大人達は連れ出されたということ!?」

 テオンは悲鳴のような声を出した。
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