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吼える月
第25章 出現
そんな中、サクは違和感を感じていた。
身体に不調はなさそうなのに、やはり身体が怠くて動きが鈍い。
一掃できずに何度も闘っているのがその証拠。
いつもならこんな程度なら、容易く片付けられたはずなのに……。
特に重く感じる足は、振り回しても痛みや異常を覚えないのに、力が抜けていく……そんな不安定な感覚は顕著になっていく。
なにか……自分から抜かれている?
誰かに?
だがそれらしい人物は見当たらない。兵士も次々に倒れていくのだ。
だとしたら……この土地が?
そして思い出す。
青龍殿の入り口になされていたのは、神獣封じ。
神獣の力を持つものを特に拒んでいるのだから、この土地においても、なにか対策があっていいはずなのだ。
この街の創設をジウが提唱したというのなら。
「ああ、もしかして……」
ユウナやイタチの交信が途中遮られていたのは、ユウナの環境がどうのではなく、こちら側の……自分側の環境のせいではなかったのか。
そして今、ごそっとなにかが奪われる感覚があるのは――。
「相変わらず、凄まじい。さすがは、ハン殿のご子息……」
嗄れた声と共に、厳めしい武装姿で現れた男。
この男の突き出された掌に……吸い取られていくようだ。
厳めしい顔をした、ギルとまったくもって同じ顔。
神獣を彫りつけた青い重厚な鎧と背に羽織る外套姿は、武闘会で見せた青龍の武神将としての正装。
蒼陵国の青龍の武神将であるジウ=チンロンが、サクの目の前に現れて神獣の力を奪い、ますます小さくなったように思える目を、顔に埋めるように細めて、笑いをつくった。