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吼える月
第25章 出現
 
 ジウは、色取り取りの草花が咲き乱れる中庭を通り、母屋たる本殿に入るようで、敷地内には屋敷を警護している兵の他にも、数人の従僕が廊を行き来していた。

 蒼陵国に入り、初めて見た蒼陵の大人達の動き。これだけのひとがいるということは、きちんとした生活がなされているのだろう。

 だがこの者達は、外で家を構えているような庶民ではない。警備兵は訓練されているような無駄のない動きをしているし、それ以外は作法を学んだ者特有の品格が感じ取れる。

 そう、これは……、高貴な者に仕えるために、身元を保証されて作法を学んで働いていた、玄武殿にいた者達と同じだ。


 ……では、ジウが集めた、街の民達はどこにいるのだろう。

 この屋敷の外で、存在しているのに気配を感じなかった者達は。


「いい加減……この格好、恥ずかしいんですがね?」

「今ならば四つん這いでも歩けるかどうか。どちらが恥ずかしいかは、武神将のサク殿が決めるがよい」

「どちらに転んでも、あちこち見られている視線が居たたまれねぇんです。一応俺、成人男性なんで」

「がははは。ここの者達はそんなことくらいで表情を崩さぬ者達ばかりだ。安心して、好きな方を選ぶがいい」


 ……何気なく聞いたものに対して、何気なく答えが返ってきた。

 これが、ジウの警戒の対象に値しないと率直に返ってきた言葉なら、この屋敷には"表情を崩す"者達はいないということだ。


「……そう言われてしまえば、運ばれる方がマシかもしれませんが、いつ俺の身体を元に戻してくれるんですかね?」

「それは祠官が決めること」

 テオンがびくっと反応して、毅然とジウに言う。


「父様は、ちゃんと元気なの!?」

「…それはテオン様が直接確かめられるとよい」


 サクは僅かに身体を強張らせたジウを、直接身体で感じ取りながら、やはりジウの嘘がつけない性質は変わっていないのだと確信した。

 だから逆にすぐわかってしまう。

 テオンの父親、青龍の祠官の病状はよくないのだと。


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