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甘く、深く、繋がって
第16章 過ぎ去らざる戒め
相変わらず手元の作業を無駄なく続けながら
「気を付けろよ。あの女、相当厄介だぞ。気付かれる前に、早く連れて帰ってやれ」
佐伯さんは左手を下げ、俺を追い払う様に手を振った。
『相当厄介』という言葉が突き刺さる。
「……ありがとうございます」
「おう」
ゴツイ外見に不似合いな気遣いが有難い。手を付けていた明日の下拵えは終わらせて、俺はそのままバックヤードへ向かった。
ノックと同時にドアを開ける。カップを手にした真純がビクリと肩を震わせてこちらを振り仰いだ。
「さいと、さん……」
赤く潤んだ瞳。ドクンと心臓が跳ねた。
ただでさえみゆきと黒田の事でささくれ立っていた気持ちがピリッと帯電する。
「いらっしゃい」
内心を隠し、笑顔を向けた俺に真純がキュッと眉を寄せた。一気に盛り上がる涙。ゆっくりと近付いて、柔らかな頬をそっと両手で包んだ。
「何か、あった?」
「……っん」
小さく頭を振って、涙が溢れる。そっと拭うと目を固く閉ざされた。
頭に手を回して抱き寄せて、でも急ぎたい。
「ごめんね。後でちゃんと聞くから。……真純、立てる?」
胸の中で頭がコクンと下がった。
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