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そのキスは許されていない……
第2章 私の妻(おんな)
私にとっては、昔も今も何よりも大切なのはお嬢様で……

大学をご卒業され、ご就職した時には

お嬢様が御結婚することは遥か彼方の事で……

考えることなどありえなかった。


まして自分が誰かと結婚するなどということは

もっとありえない事だったはずなのに……

今私には妻がいて、そしてその間に子どもまで生している。


お嬢様が結婚して半月ほど、旦那様と新婚旅行に海外へ行くと伺い、

何も疑うことなく同行するつもりだった私。

しかし直前に別の者を連れていくことが告げられ

大旦那様の命により、屋敷に残ることを余儀なくされた。

それなのに特に何かを言いつけられることもなく……

日が暮れるまで独り屋敷で時間を持て余すこととなり途方に暮れていた時、

突然の呼び出された。


いつもならば大旦那様の部屋か、書斎に呼ばれるはずなのに、

なぜかその日は違っていた。

違和感がありながらも主の命令には従うしかなく……

胸の中に渦巻く苦いモノを飲み下しながら足早に廊下を急いだ。


「失礼します……」

呼び出された部屋の前で入室を促されて下げた頭を上げる。

目の前のソファーに大旦那様と斜め後ろに誰かが立っていた。

その女の顔は……

見覚えがあった。


この屋敷で一番顔を合わせることの多いその女は、

屋敷にいる時、お嬢様の身の回りの世話をする使用人だった。
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