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ダークサイド・ムーン- 催眠術師の秘密倶楽部 序章 -
第2章 父の死
高校2年生に進級して間もなく、父が死んだ。
特に苦しむ事もなく、安らかな死に顔だ。

「…あなた…虎ちゃんと…瑠奈を…きちんと育てるね…立派に育てるから…みんなで…力を合わせて…生きていくから…安心してね…」
父の寝ているベッドに縋り泣きながら母は言った。

母は父が死んでから、以前働いていた会社に復帰した。
父が残した保険金がある筈だが、何があるか判らないからと、それには手を付けずOLとして働き始めた。

母は魅力的である。
未亡人となった今、多くの男から言い寄られているだろうが、母の姿には一切、男の影は見えなかった。

毎朝、僕と瑠奈の朝ご飯を作り終えると出勤し、夕方には帰ってきて晩ご飯を作る。
休みの日は、平日できない家事をこなし、僕や瑠奈と過ごす。

「…毎日…虎ちゃんと瑠奈には寂しい思いをさせてるから…お休みの日は家族一緒にいようね…」
それが、母の口癖だった。


僕は父親が死んでから引き蘢りになっていた。

父親の死に直面して無力感に苛まれていた僕は何もする気が起こらなくなっていた。
いや、引き蘢りは高校に進学してからの人間関係が上手くいっていなかった事が本当の原因だった。

中学時代の仲の良かった友人達とは違う高校に進学した。
新しい級友達と馴染もうとしたが、何故かタイミングが合わず徐々に距離が開いていく。
疎外感からくる恐怖心で気を使いながら級友達と接しているうちに、パシリのような扱いを受ける様になった。
屈辱感を感じながらも僕は除け者にならない様に級友達の言いなりになっていた。
クラスの女子達も、そんな僕を気持ちの悪い虫けらの様に見る。

そんな状況を変えたい。
何度も考えたが、今更方向転換は無理だ。

他人から見たら虐められている様に見えるかも知れないが、気が付けば自分が望んでそうなってしまっていたのだ。

どうすれば…

病に倒れ社会から切り捨てられ死んでいった父親を見て、自分と重ね合わせた。

疲れた…

そう思った瞬間、全てを投げ出し部屋に閉じ篭った。

母も瑠奈も、そんな僕の気持ちは判らない。
何故、突然引き蘢りになったのか。
普通に考えるとタイミング的に父親の死が関係していると思うだろう。

何度もドア越しに話しかけてくる母に対して、部屋に鍵をかけ拒絶した。
話そうとしても、今の僕では、きちんと説明できない。
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