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第60章 《其の壱》

　弥子のほんのわずかな逡巡を見透かすかのように、嗣道が言った。
「娘たちのことは何も案じずとも良い。事情を話せば、母上も子守に来てくれるであろうし、乳母もいる。母上なぞ大歓びするぞ、何しろ、殿の初めての御子の乳人に我が家の嫁女が選ばれたのだからな」
　我が子を乳母に任せ、当の母親である自分がまた乳母として他家に奉公に上がるというのも妙な話だと―、一瞬思ってしまったけれど、それが当時の習いでもあった。