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第64章 十三夜の月　《壱》

「若い頃、幾度も死んでしまいたいと思うほどの哀しみに見舞われたのは事実です。でもね、その度に思い直しました。川に身を投げようとしたときは止めてくれた人がいたのですけれど、その後も江戸に戻った私は心から愛したお人に漸くめぐり逢えたのに、その男(ひと)を良人に殺されました。良人を憎んで憎んで、殺したいほどに憎んで、実際に殺そうともしたのです。でも、殺せませんでした」
　短い沈黙が二人の間に横たわった。
「何故、その方を殺さなかったのですか？」