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Only you……
第6章 明 3

「まさか、明くんが男で、しかも架上の……とはなぁ」
残念なのか、喜んでいるのか区別のつかない声音で村中さんは言った。オレは「はぁ」と相槌を打っていた。
「とりあえず、今日は仕事の説明な?」
「はいっ」
オレは無事、この店で雇われた。何にも出来ないが、せめて返事だけはしっかりしておこうと思う。
仕事の内容は単純だったが、大変そうだった。
朝は9時までに来て、犬の散歩。それから動物たちにご飯をあげて、小屋の掃除。レジも覚えなくてはならないし、お客の対応にも不安があった。オレが不安がっていると、村中さんが言った。
「あんまり身構えなくてだいじょーぶ。ここに来る人は動物好きの人ばかりだよ」
「……はいっ!」
そうして、オレのアルバイト生活が始まった。
早起きは辛いが、それでもやりがいがあり楽しい。低血圧のせいで毎朝グロッキーだったが、犬たちがオレを見て尻尾を振れば、そでだけで元気が出てくる。
りんさんが言っていたことは本当だった。
“何か”を見つけた今。オレは前よりも少し、自分に自信が持てるようになった気がする。麻都の気持ちも、自分自身の気持ちも、前よりも受け止められるようになった。
初めは緊張していた接客も、大分慣れ、たまに顔を見せる麻都にほっとしたりもした。
村中さんも優しく、分からないことを質問すれば分かるまで丁寧に説明してくれた。
――オレはこの仕事が好きだ。
夜、麻都と2人でいつも通り夕食をとっていた。食事を作るのは、前よりも大変になった。それでもこれには手を抜けない。オレの唯一の趣味でもあるし、食べさせる相手が麻都なのだから。
ルルルルルル――。
電話のベルが鳴り響いた。2人同時にその先を見つめる。
麻都が席を立ち、受話器を持ち上げた。
「もしもーし、架上でっす」
いつもの通り能天気な声で電話に出る。
しかし数秒後、麻都の顔色は急変した。
ごとりと受話器を手から滑らせ、唖然と立ち尽くしていた。オレはそんな麻都の様子を驚いて見つめていた。
電話の向こうからは叫び声のようなものが漏れている。オレの場所からは正確には聞き取れないが、ぶつぶつと途切れた単語は理解できた。その単語とは――。
――たか、ま……さ?
――びょう、い、ん……?
オレの耳に飛び込んできたのは、そんな言葉だった。

