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衝動[完]
第5章 思い

「なに?」



「これ……。何かあったら電話しなさいね。」


祐の差し出したメモ用紙には携帯電話の番号が書かれていた。


「先生の?」



「ああ。」


弥生はその答えを聞き、恐る恐る聞いてみる。



「かけてもいいの?」



「いいよ。その為に渡したんだから。」


当たり前のようなその答えに、照れくさそうに笑ってから、弥生は俯いた。



「先生、あのね……。」



「何?」



「あの……昨日……。」



弥生はそう言って、少し考えてから言葉を続けた。


『昨日』に続く言葉は隠したまま。



「……先生、恋人、居るの?」


「居ないよ。」



「だったら、だったら、また先生の家、行ってもいい?」


恥ずかしそうに、けれど、期待の込められた瞳で見上げる。


祐はポケットに両手を入れたまま苦笑する。


「……いいよ。…ねぇ弥生。昨日オレが言ったこと、覚えてる?」


――その途端、弥生の眩しい程の笑顔を見せられた。

瞳にはうっすら涙が光っている。




これは、麻薬のそれに似ている。


一度知ってしまったら、容易に抜け出す事等出来ない――――――。


祐は、玄関に入る前にもう一度振り返り手を振る弥生に向かい、にっこりと微笑んで、片手を上げた――――――。





―完―
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