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short story
第9章 天の川 /yuriko
「でも克己くん寝てしまって・・・」


「えっ?」


「きっと疲れてるんだと思います。だから・・・」


山下さんは軽く動揺して、でもすぐ自分を立て直したように見えた。


「では・・・失礼します」


山下さんが私の部屋に上がった。
私の前を通り過ぎた瞬間、男の人の香りがした。
それは決して嫌なものじゃなく、でも私の何かに訴えるものだった。


・・・やっぱり心臓が高鳴る。



「克己」


「んー・・・」


「克己起きなさい」


山下さんが克己くんを揺り起こすも、克己くんの目は開かない。


「あの・・・山下さんのお時間が平気ならもう少し寝かせてあげてはどうでしょうか」


「でもそれでは余りにあなたに失礼です」


「私はお話した通り一人暮らしですし、用があるわけでもありませんから」



小さなテーブルの教材を片付けて、座るよう勧めると山下さんは戸惑っている。
私がお茶の準備をし出すと戸惑いながらも「申し訳ない」とやっと座った。



「コーヒーでいいですか?」


「気を使わないでください」



二つのカップを持って私も山下さんの向かいに座った。



「どうぞ」


「すみません」



音のない部屋で何を話すでもない私たち。
無言の空間は不思議と嫌なものではなかった。
でも・・・私は山下さんとお話してみたい、そう思った。
きっともう私の中で、それは恋になっていたんだと思う。


「克己くんとは良く会ってたんですか?」


「いえ、全然・・・私は仕事が忙しいですし学生時代はこっちに居ませんでしたから」


「そうなんですか・・・」


その話を聞いて二人がぎこちない理由が理解できた。


「克己くんのお父さんは?」


「義兄は仕事の後で姉を見舞って帰って来ます。あの人も忙しい人なんですよ」


「そうなんですか・・・それまで克己くんは山下さんと?」


「そうですね。でも私は子どもが得意ではないので・・・」


山下さんが苦笑いした。
それは始めて見た笑顔だった。


「・・・でも山下さんよく克己くんを見ていると思いますよ」


「どこがですか!」


「よく見てる・・・って言うのは語弊がありますけど大切にはしてるんじゃないでしょうか」


そうじゃなければ急いで迎えに来たりしないと思うから。


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