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short story
第9章 天の川 /yuriko
土曜日の幼稚園は半日で、お昼前には放課になる。
なかよし組もないから仕方ない事だろう。


「山下さんとも今日が最後なんですね」


「・・・・・・お世話になりました」


車の中の山下さんが頭を下げた。



「いえ、私は何も・・・」


それから二人は無言になり数秒が過ぎる。
・・・あの時は気づかなかったけど、お互いがもう一歩を踏み出したくて・・・でも勇気がなかったんだと思う。


「・・・お元気で」


「由里子さんも」



私は一歩下がって頭を下げる。
ゆっくりと車が発進して、この三日そうしてきたように見えなくなるまで見送った。



明日はもうない。
山下さんを見るのもこれが最後になるのだろう。








山下さんが言った通り、翌週から克己くんはお婆ちゃんが迎に来て、そのまま山下さんとは会うことがなくなった。



それから一ヶ月経った頃、保育室で仕事をしながら梅雨真っ只中の雨の園庭をぼんやりと見つめていた。


山下さんと初めて会った日も雨だった。
門扉を見ていると慌てて入ってくる山下さんが思い出される。


でももう山下さんに会うことはない。
もう・・・



私の手元には画用紙の短冊。
明日の保育で子どもたちの願いを書くものだ。


お手本を作るため、私はその一つに願い事を書き込んだ。


「・・・・・・・・・」


願い事をあれこれ考えて、躊躇いながら書き込んだ私の願いは・・・



「ひこぼしさまにあえますように」



会いたい・・・
山下さんに・・・


会ってもっとお話がしてみたい。
彼の事をもっと知りたい。


でもそれは叶わぬ願いだ。
短冊を胸に抱いて想いだけを詰め込んだ。













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