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ピンクの扉
第9章 タクシードライバー

「どちらへ向かわれますか?」

とにかく車を出して頂戴と走り出させたものの
まだ行く先を聞いていなかったドライバーが
桃子に催促した。


『どこへ行こうかしら…』

社宅で
ゆっくり夫の世話をしようと考えていただけに
帰りの飛行機の切符は一週間後なのだった。


「じゃあ…とにかくこの辺りで
一番安いビジネスホテルへ…」

そう告げると「かしこまりました」と
小さく頭を下げてドライバーは
車を快適に走らせた。

一時間は走っただろうか。

札幌駅からはかなり離れたところで
タクシーはストップした。

昼間だと言うのに
樹木が生い茂り日の当たらない
薄暗い森の中だった。

周りを見渡しても
ホテルはおろか1軒の住宅もなかった…


「あ、あの~…ホテルに行きたいんですけど…」

「あんた、何か訳ありだろ?
よかったら話を聞いてやるよ」

ドライバーはタクシーのエンジンを切り、
運転手席を出て後部座席に乗り移ってきた。

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