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あの店に彼がいるそうです
第9章 俺は戦力外ですか
 嘲るような冷たい声。
「かつてのお前の巧のようだな」
 ガタンッ。
「やめろ、汐野」
 動く隙もなく銃を突き付けてきた汐野が不服そうに引き下がる。
 引き金を上げる音が聞こえた。
 心臓がバクバクと鳴っている。
 鵜亥は額に手を当てて、浮き上がる血管を隠した。
 口元が歪んでいる。
 どうやら禁句だったようだ。
 秋倉は息を整えてから口を開いた。
「確かに目的はその三人だと言えよう」
「ええ。さて、話し合いが平和に終わるためにもお互いの過去には触れないようにしましょう」
 業務的な口ぶりだが、色濃い殺意を秘めている。
「わかった」
「どうも」
 小木はどんな顔して聞いているんだろうな。
 笑っていたら首を絞めてやりたい。
 汐野が銃身でテーブルを叩く音が連続的に聞こえる。
 その圧迫感といえば言いようがない。
「篠田には復讐。類沢には再復帰。では、この少年には何を求めるんですか」
 淡々とまとめてくれる。
 秋倉は苦く笑った。
「篠田の一件も知っているのか」
「類沢が貴方の手から逃れたのは彼の存在によるものだと把握していますが?」
「合ってるが」
「他に目的が?」
「大体今言ったとおりだ」
「ではこの少年の身柄はどうするつもりですか?」
 質問攻めには慣れていない。
 秋倉は深く呼吸する。
 どうも店内の空気が薄く感じる。
 鵜亥の存在感の大きさのせいだろうか。
「良ければ、うちに譲っていただけませんか」
 予想外の申し出に顔を上げる。
 鵜亥は朗らかな笑みを浮かべていた。
 まるで新しい玩具を見つけた子供のように。
「貴方の機関と違ってうちで扱っているのは高校から大学までの青年です。正直これほどの逸材は久しぶりに見ました。ぜひ頂きたいのですが、今回のそちらへの協力の報酬という形で如何でしょう?」
 まるで、児童が口ずさむ花一匁。
 人一人の命の交渉。
 それを軽々と。
 易々と。
「鵜亥はん、それでは安すぎひんか」
「今日は随分喋るね、汐野」
「喋りたくなるほど無茶な交渉やからな」
「そう……とりあえず黙ってろ」
「はいはい」
 頭上で交わされる会話も耳には入らない。
 秋倉は机に並んだ写真を交互に見ていた。
 類沢と、宮内。
 盗み撮りされた飾り気のない二人の顔を。
 つい昨日のように蘇る火事の中での二人。
 憎しみと共に感情が湧き上がる。
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