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あの店に彼がいるそうです
第3章 体を売るなら僕に売れ
 イギリスかどこかのものだろうか。
 脚の装飾が細かい机。
 上にはエメラルド色のテーブルクロスが緩やかにかかっている。
 その花模様を指で追うと、コツンと写真立てにぶつかった。
 見ると、可愛い少年と美しい女性が手を繋いでいる。
 少し伸ばした髪が、少年の顔を暗くしている。
 手の向こうにいる女性に何を抱いているんだろう。
 森の中の公園の写真で、女性は日傘を持ってにこやかに立っている。
 背後は白い建物で、教会にも保育園にも見えた。
 ひょっとして、この少年は類沢なんだろうか。
「……モテたろうなぁ」
 つい嫉妬してしまう顔立ち。
 そして呆れる。
 何を過去の少年に、と。
 同時に類沢を尊敬する。
 そこまで外見に恵まれたのか、と。
 眺めていると、いくつか発見があった。
 この類沢少年は、腕から先に包帯を巻いている。
 その手を隠すように後ろに回し、ギュッと女性の手を握りしめている。
 怪我。
 映したくない怪我。
 頭の中で空想が始まりそうなので、一旦目を閉じる。
 もう一つ気がかりなのは建物だ。
 余りに白い。
 異常なくらい。
 木々に囲まれ、温かい日差しの中にあるのに、そこだけ別空間のように浮いている。
 なんだろう。
 この違和感は。
 この建物は。
 そして、最後に気になるのは少年の隣に小さな手が見えること。
 心霊写真の類じゃない。
 隣に立っているもう一人の人物が切り取られたような手。
 類沢少年が妙に写真の端にいる理由がこれかもしれない。
 これはある写真の一部なんだ。
 わざわざ、この二人だけを切り取ったもの。
 でも、なんで。
 この手の正体は誰なのか。
 俺は首を捻って写真を眺める。
 まぁ、いいか。
 今度尋ねてみよう。
 そう思った時だった。
 写真の端に数字を見つけた。
 後から書き足したような手書きの数字が四桁。
 1223。
 なんだ、これ。
 落書きにしては整っている。
 たった一枚の写真なのに、なんだか大切な意味が隠されている気がしてならない。
 他に関係するものはないかと机の上を見渡す。
 手帳に万年筆。
 小さな本棚。
 並んでいるのは哲学書に小説。
 気になるタイトルばかりだが、触れないでおこう。
 本は性格を表す。
 勝手に見れば、その人への接し方も変わってしまう。
 それは失礼だし、なんか嫌だった。
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