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藤の舞
第15章 誘惑
「いや、まだ繋がる前だったから大丈夫なんだ。」

「ふぅん、結婚してるんだ。指輪してないのね。」

男の薬指に指を這わせると、ビクリと反応した。

「奥さんは可愛い?」

男は何事もなかったかのように足首に湿布を貼っている。

「普通だよ。」

「ふぅん、でも帰るコールするなんて、仲がいいじゃない。」

「いや、普通だよ。」

「へぇ、普通普通って、じゃあ奥さんとのsexも普通?それともレス?」

男の手が止まり、アタシを覗きこむ。

「ああ、冗談よ。結婚ってどんなものなのかなって…」

「普通だよ…」

「あははっ、貴方面白いわね。」

「あんまりそんなこと言われたことがないな。」

男がだんだん慣れた口調になっている。
気を許し始めたのだろう。

「奥さんに貴方のことを訊いても、『普通』って答えるのかしら。」



男は黙ったまま湿布を貼り、包帯を巻いていた。

「妻の話は、関係ないだろう?」

「あははっ、奥さん大事なのね。ごめんなさい。」

「いや、大事だからとかじゃなく、君には関係ないだろう?」

「そうね。奥さんは貴方がまだ仕事中だと思ってて、
ここには貴方とアタシ、二人きりしか居ないものね。」

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