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藤の舞
第18章 人工受精
「割きはあそこで出来そうか?」

「しっかり絞めて固定されてれば大丈夫です。」

そしてあいつが、男たちに医療用のゴム手袋を渡した。

「さて、僕が一番乗りでいいかな?」

「もちろん。」

男たちが答える。

「皆さんも逃げないように捕まえるの手伝ってくださいよ。」

箱を男たちだけで覗き、何やら相談をしていた。

「じゃあ、旦那、いつもの実演の講釈を頼む。」

そういうとあいつが箱に手を入れ、黒く長く動く物を掴んで持ち上げた。

「え〜鰻は江戸時代から蒲焼きにして食されてきて、昔から精のつく食べ物として愛されて来ました。」

あいつが手を滑らせて、鰻が床を這う。

「土用の丑の日は今でも有名ですが、割き、捌き、焼き、とその技術を習得するには、何年も要すると、職人泣かせの食材でもあります。」

ようやく掴んで持ち上げるが跳ねて妻の脚に当たり、また床で暴れる。
妻も身の危険を感じ、震え始めた。

「当店では焼きまでを習得した上で、やはり原点の割きに味の秘訣があると、
いわば窒息しかけの仮死状態を見極め、串を打つタイミングを試行錯誤して、
当店の売りにしております。」

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