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泡のように
第21章 20.
 期待はずれの気持ちを抱いたまま、左手を見つめる。
 UVカットのカーディガンから覗く指に、きらりと光る指輪。

 愛莉に貢いだせいで300万くらいしか貯金が残ってないから、あんまり派手なのは買ってやれねえけど。
 とか言って、先生は、ごくシンプルなプラチナの指輪を買い与えてくれた。
 ワンピースを買ってもらう前に、どれがいい?って大丸のショーケースの前で聞いたから、適当に私が指差したやつ。

 値札にはゼロが5つついていた。

 ワタシはダレカのモンです。っていう自己顕示欲を振りかざすためだけに存在する輪っかに、じゅうまんちょっと。
 高いんだか安いんだか、300万も貯金があるくせにその程度なのかどうなのか。
 私にはわからない。

 私は、指輪なんかいらなかった。
 どうしても貰わなきゃいけないなら。
 晴香がつけていたような、大学生の彼氏にもらったっていう、メッキの指輪。
 あんなのでよかった。
 あれくらいのが、よかった。

 こんなのいらなかった。って、団地からの帰り道、私は八つ当たりするように先生に言って、泣いて、そして、さりげなく4℃ってロゴが入った白い紙袋を、先生の車の後部座席に放り投げたんだった。
 パカッて開く小箱も。
 ちっせぇビービー弾みたいな薬と、一緒に。

 ウチに帰ってから先生はポロシャツとチノパンを脱ぎ捨てて、笑いながら私をいつものように抱いた。

「まぁそう言うなよ。大人になったら本音と建前ってのが生きる上で必要なんだぜ?いくら山岸が俺とのセックス以外なんにもいらねぇとしてもな、指輪のひとつもやらねぇで結婚だのどうのって、親の手前言えねぇだろ?わかるか?わかんねぇよな。お前バカだからな。ほんと、バカで、たまんねぇくらい、可愛いよ。お前」

 そんなことを、ほざきながら。
 
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