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§ 龍王の巫女姫 §
第10章 春節の夜


家族を持たない炎嗣には、経験のない事である。
それは王になった今でも変わらない。


“ いや…一度だけ、あったかもな ”



「……?」



まただ


炎嗣の横顔をちらり覗き見た水鈴は、その言葉にならない表情に…首をかしげるしかなかった。


どうして…国の頂点に立つこの男は

時おり、ふとした瞬間に

こんな顔をするのだろう。









........




「たまには、この様な安物の味も悪くない」


誉めているのか貶しているのか。

店から離れた炎嗣は、買ったばかりの餃子を口にいれるとそんな感想を述べていた。


春節の三日目には、王宮で、家臣を招いての盛大な宴会が行われるものの、餃子のような庶民的な料理は出てこない。


「…後ろのあいつ等は、今ごろ肝を冷やしているだろうな」


あいつ等とは、離れた場所から見守る侍衛のこと。

本来ならば臣が毒味した物しか、王が口に入れるべきでないからだ。

買い食いなどもってのほか。


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