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§ 龍王の巫女姫 §
第2章 峭椋村の巫女姫


───


村長に連れられて、水鈴は彼の家に入った。


村長だからといって特別豪華な家屋が与えられるわけではない。…皆が家族なのだから。

齢四十になる彼は、世間が思う村長のイメージよりか少し若いのかもしれない。

けれど水鈴は彼しか《村長》を知らないので、それを不思議に思うことはなかった。


「…座りなさい、水鈴」

座卓に水鈴を促して、彼は釜戸の白汁を器についで手渡した。

中には収穫したての沢山の根菜が入っている。


礼とともに器に口を付けた彼女の前に、彼も腰を下ろして話しかけた。


「──…何故に都へ行ったのだ?」


当然のごとく彼の声には棘がある。本当は叱咤したいのを懸命に堪えている筈だ。


「申し訳ありません…。しかし村長、わたしは何も知らない世間知らずな自分が怖いのです。都にはわたしの知らない世界があり、それはそれは美しい音楽と食べ物…人々の《生》があったのです」


彼女は謝りながらも、今日自分がこの目で見てきた都というものを語りたかった。


其処は村の生活とは全く違う別世界。

賑わいと美に溢れた夢の世界──。

それに憧れるこの思いをわかってほしかった。



けれどそれが村長の逆鱗に触れる。


「音楽や美食への欲は凡人が持つものだ!」

「……っ」

「巫女であるお前がそのような煩悩に振り回され、危険な場所に踏み込むなどあってはならぬ。そんなことでは…穢れてしまう。お前は巫女失格だ!」


大声が狭い家屋に響き
下を向いた水鈴の鼓膜を激しく震わす。

こればかりには何も言い逃れができなくて…彼女はもう一度、自分の過ちを認めた。



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