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忘れられない指
第3章 恋のすすめ
聞きながら、私はちょっとひやひやした。
なぜなら、その話の元ネタになったあのカップルがまだいるからだ。
もしマスターに話を振るような事があったら彼らに聞こえてしまうんじゃないか、と。

案の定、マスターに話を振る。
そもそもなんでそんな事言いだしたのか。
孝明も含めた3人は、いっせいにマスターに視線を向ける。

でもそこはさすが、バーのマスター。
他のお客を引き合いに出した話などしなかった。

「僕はね、親心で言っただけなの。
 かわいいムスメの幸せな姿を見たい、これ父親の心理としちゃ当然のことなのよ。
 ただそれだけ。
 そこへたまたま孝明くんが来たからさ、まあ一応話ふってあげただけだよ」

へへ、と舌を出す慎介さん。
大人のやんちゃ顔も素敵だ。
私は3人にむけている顔を斜め横から見つめてにやけた。

「なんだ、そういう事・・ようは、咲子ちゃんが誰を選ぶかってことか」

凌空がカウンターに乗り出すようにして孝明の向こう側から私を見ている。
そして他の2人も私を見る。
6つの目玉に見つめられ思わず体を引いた。

「ちょっと誰を選ぶって、私の選択肢はあなたたちしかいないんですかって抗議します!」

笑い声、落胆の声、けしかける声。
束になってかかってくる男達の声と私の笑い声。
まだしばらくはこのバーの中に響き続けるだろう。

そして休日前のはじける夜は、まだまだ終わりを告げそうになかった。

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