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忘れられない指
第2章 出会い

「咲子ちゃん、先週来なかったけど、仕事忙しかったの?」

いつものカンパリオレンジを私の前に置きながらマスターが聞いてきた。

このBARシークレットには、半年前に初めて足を踏み入れた。
この町に住み始めてからずっと気になっていた店だ。

駅を背にして歩くことわずか。
商店街のほぼ端のあたりにその店はある。
大きな木の扉にはステンドグラスがはめ込んであって、
初めて見た時から喫茶店なのか飲み屋なのか、気になって仕方なかったのだ。

そして勇気を出して店の扉をあけたのは、
半年という時間が経ってからのことだった。


マスターの慎介さんは、46歳のバツイチ。
初めてこの店に入った時、間違って入ってきたと思ったらしく、
ここは酒しかないけどいいの?と
その髭面からは程遠い、優しい口調で声をかけてくれた。
少し見た目が幼い私。
二十歳を超えているかどうか確認したんだ、と後でマスターは話してくれた。
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