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忘れられない指
第6章 先が見えない・・
ビールが私の前に置かれると同じくして、
ガラン・・と背後で音がした。
振り返ると、孝明だった。
私の頬はゆるんだ。

「お~やっと来たか、お疲れ!」

「お疲れ!はぁ~ホント、疲れた!
 マスター、ビールとピザトースト、あと腹にたまるもの、なにかある?」

「おかえり、孝明くん。じゃあジャーマンポテトなんてどう?」

「お!いいね、じゃあそれ!」

立ったままおしぼりを受け取り、手を拭きながら私の右隣に座った。

本当は心臓がバクバクしていたけど、必死に普段通りを装って孝明に顔を向けた。

「この前はありがとね」

「いーえ、どういたしまして。
 またやろうね、凌空の家で。
 オレん家なんかでやられたらコイツら背負って送っていかなきゃならないからねぇ」

ひでぇ!一際大きな声で抗議する凌空を、いつものように史彦がつっつく。
それを見てマスターが仲裁に入る。

いつも通りの光景を見ながら私は笑う。
もしかしたら何かが変わってしまうかも・・
あの夜の出来事が、私のこの大切な時間と空間を違ったものにしてしまうかも・・
ちょっと心配していたのだが、どうやら大丈夫そうだ。

騒々しい両脇に交互に目をむけながら、楽しい輪の中で私も笑い続けた。

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