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ジェミニの檻
第13章 noreason
ピークを過ぎた電車で、並んで座ると向かいの窓ガラスに二人の姿が映し出される。

目を閉じる志貴。

六花はガラス越しに志貴を見つめる。

''六花、好きだ''

確かにそう言ってくれた。

けれど、こうやって隣に座っていても手すら繋がない。

ただ…体を重ねる為、欲望を満たす為だけの言葉ではないとどうして言い切れるだろう。

由岐は違う。

好きだと言って、笑いかけてくれて、髪を撫でて、手を繋いでくれる。

行き場のない右手を左手でぎゅっと包み込む。

言葉だけを信じることなんて、出来そうにない。

電車に揺られながら、瞼が重くなっていく。

「…っか、六花、降りるぞ」

肩を揺すられて降りたのは、六花の最寄り駅だった。

バイトの帰り道と同じだけれど、今夜は言葉もなくただ歩く夜の帳の中。

志貴もただ前を見て、いつもの歩幅で歩いていく。

「…足、速い、よ…」

「長いんだから、しょうがないだろ?」

思わず眉間に皺を寄せて志貴を見返すと、志貴は六花の額を指で弾いた。

「…痛い…血が出たらどうするの?」

「…舐めて治してやろうか?」

「…なにそれ」

「にやにやしてないで、さっさと寝ろ、じゃあな」

踵を返して遠去かる志貴をいつまでも見つめていた。
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