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水蜜桃の刻
第11章 その視線
「本郷くん……痛い」
「あ」
途端に離されたその手。
すいません、と呟かれた。
「……悪いけど、今はそういうの考えられない」
その部分に手を当てる。
まだ掴まれたままのような気がする。
「何ですぐに答え出すんですか」
「え……」
「俺のことちゃんと見てください」
「本郷くん……」
「告ってからがほんとの勝負だって、俺思ってるんで」
そっと彼を見ると、彼も私を見ていた。
そして、また続ける。
「俺のこと意識してください。
鈴木さんを好きなひとりの男として、見てください。ちゃんと考えてください。
だからまだ……返事はいらないんで」
それだけ言うと、少しの沈黙のあと……すいません、と呟いた。
その意味を目で問えば
「引き留める権利は俺にはまだなかったですよね」
そう答え、ふうっと深く吐く息。
「すいませんでした」
そう言って、頭を下げる。
そのまままたお店へと戻って行った。
その姿が視界から消え、私もはっと我に返る。

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