この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
水蜜桃の刻
第21章 epilogue
「……甘い」
噛めば溢れる、桃の蜜。
味わいながら先生を見れば、桃で濡れた指先を舐め、小さくリップ音を立てながら離す。
そのままウェットティッシュのボックスから一枚取り出して、指先を拭く。
「……愛してるよ」
不意に、口にされた。
視線は指先に注いだままで。
それから、目線だけを私に流し
「ちゃんと」
そう、付け加える。
「……っ」
途端に、口の中の蜜が、甘さを増した気がした。
そんなことあるわけないのに、そんな気がした。
……その甘さをゆっくりと味わうようにして、それから、飲み込む。
それから、うん、と先生に微笑んだ。
「……なんか、思い出しちゃう」
そうして、少し間を置いて発したその呟きに、先生は、何? と視線だけで問いかけてくる。
「毎年ね、この季節は思い出すの……いろいろと」
そう続ければ、まざまざと浮かんでくるその情景。
あの、先生と交わした一度きりの約束。
そして、1年前の再会。
私の中の、それらの記憶。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


