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水蜜桃の刻
第5章 その笑顔


「何でも、は……無理かな」


それは多分、私の気持ちに関係してること。


「……だよね」


へへ……と少しだけ笑う私に、先生も今度はちゃんと笑みを返してくれた。

その笑顔を見ていたら、胸がきゅうっとする。
私はまだ、先生が好きだったから。
今日を最後に会えなくなるなんて、そんなの……そんなの。


……でも。
つらくても、それはどうしようもなくて。


なら、せめて


「……忘れないで」


そう、それを望んだ。


「え?」


先生が、聞き返してくる。
私は再度口にした。


「私のこと忘れないで、先生」


私と先生の、ふたりだけの秘密のあの時間。
……忘れないで欲しかった。


「あの秘密……ずっと覚えててね」


くっ、と先生の袖をちょっとだけ掴んで、そう願った。


「……わかった」


先生の返事が聞こえても、そのまま、しばらくそうしていた。

たった一度の私から誘ったそれ。
先生の中でなかったことにはしないでくれるなら、それでもう、私は。


ありがと、先生……。


心の中で呟く。



そうして。
先生とは、それきりになった────。






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