この作品は18歳未満閲覧禁止です
![](/image/skin/separater19.gif)
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
水蜜桃の刻
第7章 その指先
![](/image/mobi/1px_nocolor.gif)
「結婚なんて……してないよ」
口にしながら、思わず先生の左側を見る。
けれどもテーブルの下にあるのか、その手は見えなかった。
「ん?」
視線の方向に気づいたのであろう先生が、柔らかな口調でその意図を尋ねてくる。
慌てて首を振り、何でもないと言わんばかりに私は自分のカップを両手で持ち、口元に寄せた。
ふわりと漂うその香り。
先生が好きな、アールグレイ。
いつの間にか、私も好きになっていた。
その香りに満たされながら、あらためて状況を思う。
これ……本当は夢なんじゃないのかな。
だって先生とこんな形で再会なんて。
そんなこと、まさか起こるなんて。
……信じられない。
けれど、目の前のひとは確かに先生で。
テーブルの上に置いてある、さっきもらった名刺には先生の名前がちゃんと書かれてる。
「何年振りかな」
先生の呟くような言葉に
「……10、年?」
無意識のうちに答えている自分。
「そんなに経ったんだ」
「だって私もう……26だから」
「……え? 26?」
こくん、と頷く自分。
「そっか……そうだよな。
俺ももう32だもんな」
ははっ、と笑う先生に、同じように笑って返す自分。
![](/image/skin/separater19.gif)
![](/image/skin/separater19.gif)