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水蜜桃の刻
第7章 その指先


──と。


「あ」


またスマホが鳴った。
はっ、として時計を見る。


「……っ、そうだ、約束……!」


もう、14時をだいぶ過ぎていた。
待ち合わせは15時だから、そろそろ出ないと間に合わない。

でも。

せっかく先生と会えたのに──そんな思いが頭をよぎった。


「さっきの相手じゃない?」


先生がそう言って


「出ないの?」


促してくる。

私を見て。
少しだけ、首を傾げるようにして。


「……出ます」


私は呟くように口にして、視線をスマホに移し相手を確認する。
通話をタップした。


『もしもし? 俺です!』


同僚の彼は、明るい声で話しかけてきた。


「うん、ごめんね……さっきちょっと出られなくて」

『いえ。準備の真っ最中とかで忙しかったかも、って後から思いました! すいません!』


先生と会ったことで、約束が頭からすっかり抜け落ちてしまっていた私は何も答えられず、黙って言葉の続きを待った。


『鈴木さん、まだ家にいます?』

「え? あ──……うん」

『じゃあどうせだし、待ち合わせるんじゃなくて車で家に迎えに行ってもいいですか?』

「え?」

『だめですか?』


ちら、と先生を見る。
いつの間にか取り出していたスマホをさわる指が滑らかに動いていた。

相変わらず、綺麗なその指先。
思わず、目が離せなくなる。


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