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sunset~君の光になりたい
第8章 hold on
(……怒った?私……何かいけないこと言った?)

 鼻の奥がつんとして目の周りがたまらなく熱くなった。すると、不意にふわりと背中が暖かくなった。

「ほら、これ掛けて休んでな」

 ヒロが手にしているのは毛布だった。千波の背にそっとかけてやる。

「客席の方へ無理して行かない方がええかもな……て、あんた何泣いて」

 ヒロは大きな目を見開いている。

(――そうか私、泣いているんだ。ヒロさんが怒ってると思って悲しくて泣いてたけど、今は、多分違う……)

「ヒロさん……」

 千波は掠れた声を出す。

「……何?」

 彼は、正面にしゃがみ込みじっと見つめている。

「うれしい……」

 やっとの思いで、なんとか笑顔で言った次の瞬間、強い力で抱き締められていた。

「……千波」

 小さな、とても小さな声で、しかしハッキリと彼が名前を呼んだ。
 ヒロは抱き締める力を一瞬更に強くしたが、直ぐにそっと離し、呆然とする千波を残しステージへと向かって行った。
 ホールからは歓喜の悲鳴が聞こえ、演奏が始まっている。
 千波は毛布を握り締め、ヒロの言葉を何度も反芻した。

 ――千波……
 ――千波……

 両目から、はらはらと熱い涙が溢れてくる。
 (私、どうしたの?)

『ぢなー!!thunderのヒロには要注意だがらねー!
  金ばづのギターばんなんで、ろぐな奴じゃないにぎまっでるんだからー!!』

 不意に、里沙がしきりに言っていた言葉を思い出すが、千波はクスリと笑った。

 ――里沙。
 ヒロさんを嫌な人なんて思えないよ。
 だって私。
 こんなにも嬉しい。
 「千波」 て呼んでもらえた事が……
 こんなに……



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