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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
 
『あたし……
 どこに行けばいいのか、
 わからないの……』

言外にその意味をほのめかしたともとれる早苗の述懐は、圭司の胸に沈痛にひびいた。
心の置きどころは渡瀬ではないという、早苗の素直な心境がもれたのだと圭司は思った。

『年末ぐらいからみんなバタバタして、
 最近、ゆっくり話してなかったな』

『そうね……』

『早苗、訊いていいか?』

『うん……』

何を訊かれるのか早苗には察しがついている。
責めることになるかもしれないと思いながら、圭司は訊(たず)ねた。

『ゆうべ、
 あのあと、どうしてたんだ?』

うつむいて手元を見つめ、早苗は黙りこんだ。
強く責められることを拒まないようにも見える。

早苗の沈黙は、圭司のあやふやだった憶測を揺るぎない事実に変えた。
そのとたん圭司の中に、出所のわからない感情がむらむらと湧きおこった。
放っておけばどこまでも膨れあがりそうな感情は、あの男への憎悪であった。

身内を痛めつけられた不良グループのリーダーのように、報復の手段を考えていた圭司は、ふと、ふくらんだ憎悪の背後にあの男への猛烈な嫉妬があることに気づいた。
早苗が傷つけられたことよりも、いじくりまわされたことにムカっ腹が立つ。
それは、嫉妬心を誤魔化すための憎悪である。
ハンドルを握る手に力がこもる。
眉をしかめた。

――――(いったい、何されたんだ……)

自分の感情に汚らわしさをおぼえながらも、圭司は嫉妬にかられた。
そして、今まで押し殺していた早苗への性的な欲望が、こつぜんと頭をもたげるのを感じた。

突然、吐き気に襲われた早苗が、車をとめてくれと圭司の肩をつかんだ。
ワゴンが停まりきる直前に助手席から飛びだした早苗は、歩道の植えこみに顔を突っ込んで、丸めた背中を上下させ、胃の中のものを吐きだした。

『大丈夫か?』

圭司も車を降りて駆けより、波打つ早苗の背中をしばらくさすり続けた。


 
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