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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
 
圭司は、早苗から空のペットボトルを取りあげると、おぼつかない足取りの早苗をかかえるようにして助手席へすわらせ、笑顔でシートベルトをかけてやった。

『大丈夫か。
 今日はちゃんと靴はいてるな?』

『ぅん、だいじょぶ』

ネジのゆるんだ不確かな呂律であったが、吐いて少し楽になった早苗は、表情をくずし、優しい目で笑った。
あきらかに取りつくろった笑顔が、腫れた頬より痛々しい。

『ゆっくり運転するよ。
 つらくなったら、いつでも言え』

不倫男とのことをあれこれ手繰(たぐ)るのはよそうと決めて、圭司は車を出した。


信号待ちのたびに止まりそうになるオンボロエンジンに気を使いながら、圭司は黙って考えていた。
どんな意思がはたらいて、早苗は渡瀬に体を開いたのか。
渡瀬に抱かれながら流した早苗の涙は、いったい何を嘆いたものだったのか。
あれ以来、二人のあいだに性の行為はないという。
不倫男への未練が早苗にヤケを起こさせたのだとしたら、渡瀬の想いも救いようがない。

『けいちゃん』

早苗が沈黙を破った。

『さっきの質問、
 あたし、まだ返事してない』

『うん、けどいいよ。
 言いたくないことだって、
 あるもんな』

『しなくていいの?』

『俺達が、俺と渡瀬がいけないんだ。
 一年以上いっしょに暮らして、
 早苗が苦しんでるの、わかんなかったんだ。
 早苗が倉庫に来た理由を考えれば、
 わかりそうなもんなのにな。
 悪かったな、早苗』

早苗は一瞬、気色ばんで圭司をにらむと、息をのみ唇をかんだ。

そうじゃないの、河村を忘れるためじゃない。
あたしは圭ちゃんをいちばん近くで待ちたかったの。
「あなたが好き」って、それが言えるなら、共同生活なんて終わってもいいと思ってるの――――。

のど元でとどまった言葉を飲みこんだ。
本心を気取られまいと、できるだけ素っ気ないふりで圭司から視線をはずした。


 
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