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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
 
行動派の早苗からすれば、渡瀬の純真さは抽象的で歯ごたえに欠けるのだろう。
ぶきっちょで不恰好な表しかたでもいい、愛されていると実感させてほしい。早苗はそう思っているはずだ。
女を好きになるのに謙虚になってどうする。
愛しているのなら、是非もなく、かっさらえばいい。

『ホントに好きなら、
 誰に言われなくても、何を捨てても行くもんだ。
 これは麻衣のウケウリだけど、
 俺もそんな気がしないでもないな。
 ほどほどに女を好きになるなんて、
 俺にはできねぇよ』

口をついて出た自分の言葉に、渡瀬を責める成分が含まれていたのを反省し、

『浩ちゃんが決めたんなら、しょうがないけどさ』

と付け加えて、圭司は、熱を帯びた胸のうちを冷ますかのように、勢いよくジョッキを空けて店員を呼んだ。
ジョッキを下げに来た店員に焼酎を註文し、早くホッケをくれと急(せ)かした。

渡瀬はいつもの温和な顔をくもらせて、考えながら思いを口にした。

『俺だって考えたさ、頭が禿げるくらいに。
 でも、やっぱり、
 早苗の首を無理やりこっちに捻じ曲げるようなこと、
 できないし、やっちゃだめなんだ。
 俺はそう思ったんだ。
 だから早苗が自然に振り向くのを待ったんだ。

 でも早苗は不倫野郎のとこへは行ったけど、
 俺ンとこには来なかったんだ。
 そんな野郎から奪えない俺もダメ男だ。
 けど、圭ちゃん、
 これって答えが出たってことにならないか?』
 
『そうだな。そうもとれる。
 でも、女ってのはそういうもんらしい。
 揺れ動く。
 だから捕まえてないとダメだそうだ』

そう言ってから圭司は、自分の心に影が差していくのがわかった。
それは、自分に向けて言うべき言葉でもあったからだ。


 
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